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はらぺこぐんだん2~殴りBISの破砕日記~

6章




6章
【追走者】




《鉱山町ハノブ》




「ジグ、思ったんだが装備外観OFFにしたほうがいいかもな」

「そうだね、これだと目立ちすぎる・・・」

僕達はそんな会話をしながら
周りを鉱山に囲まれた町、ハノブのメインストリートを歩く

クランツにいわれるままに
腕の機械を操作し、装備外観をOFFにしたが
特に何も変わらないように見える

普段から自分視点では
自身は軽装に見えるように設定されている為
変化は分からないのだ

「そこの窓で自分の姿を映してみな」

クランツに言われて
僕は近くの民家の家の窓に自分を映してみる

「あ、鎧が消えてる」

クリムソン商店を出た後に
一度自分の姿を映してみたことがあったが
その時は重装備を僕は装備しているように見えた

だが今は自分視点の時と同じ軽装となっている


「これで周りの目もあまり気にならないな」

微笑みながらクランツが親指を立ててくる


「うん、そうだね」

正直ずっと周りのプレイヤー達から
変な視線を受けていた為、それがなくなるのは僕には非常に嬉しい事だ

あの後墓地からハノブまできたはいいが

町に入ってからずっと周りの人に見られっぱなしで
正直参っていた所だ・・・


「さて、これからどうするかな」

手を顎に添えて考える素振りをしながら
クランツはそう言って僕を見てくる

「うーん・・・僕のデータを解析できれば一番楽だけど」

僕達の目的は
僕自身の正体を知ることにある

そのうえで一番手っ取り早いのは
ゲーム上での僕自身のデータを解析する事だ

「難しいだろうな、データ解析はそもそも禁止事項だし
 その行為自体相当な専門技術が必要になってくるだろうしな」

「そうだねぇ・・・」

運営やEMに頼れない現状で
ゲーム内からデータを解析できる人などいるのだろうか

ん・・・?待てよ

「思ったんだけど、ログアウトしてデータファイルを
 PCで解析すればいいんじゃ・・・」

わざわざゲーム内から解析する必要はない
一般的にデータ解析自体が、ゲームのクライアントのファイル等から
データを取り出して解析するのが普通である

我ながら良いアイデアだと思ったのだが

「それは無理だな」

クランツが僕の思考を遮るように否定する

「え、どうして?」

僕には無理と断言する理由が見つからず
そう聞きながらクランツの顔を見る

するとクランツは苦虫を噛んだような表情をしながら
自身の腕の機械を見つめている


ちなみに、ハノブまで移動する間
クランツに色々と教えてもらっていたので訂正するが
腕についているこの機械は【アームコントライブ】という名前だそうだ

皆、略して【AC】というようだが、例の機関とは全く関係無い
そして芸人が繰り広げるコントライブとも関係は無い。

関係無い話は置いておくとして
僕は目の前の状況に考えを戻す

そして次の瞬間
僕は信じられない言葉をクランツから聞く事になる


「ログアウトができなくなってるんだ・・・」

クランツは少し悔しそうな表情をしながら
ACを見つめている

「え、それって・・・」

僕は一瞬クランツが何を言っているのか
理解する事ができなかった

「文字通りの意味だよ・・・はぁ、やられたな」

ACから視線を外したクランツが
溜息を吐きながら方をすくめる


「そう・・・ですか」

ログアウトが出来ない

つまりはそういうことである


運営側が僕たちを逃がさない為に
1つの逃亡手段を奪ったのである

だが、僕は思った

「でも、そのログアウトが出来ないように運営側が設定したデータを
 書き換える事でログアウトできるようにする・・・というのは?」

クランツは頷く

「あぁ、今考えうる方法としてはそれしか無くなったな」

だが・・・と付け加えて
クランツは続ける

「設定データを書き換えたうえでログアウトし、さらにそこから
 先程言ったようにジグのデータを解析しなければならんだろ?」

僕はそれに頷きながら
さらに続けるクランツの話を聞く

「そうするとかなりの手間と時間が必要なうえに、もしそこまで出来る程の
 技術者が見つかったとしても協力してくれるかどうかが問題だな」

そう、クランツの言う通りである

見ず知らずの人間に対して
違法行為まがいの事をしてまで助けようとは思わない

自身に何のメリットもないからである


「まぁ、やってみる価値はあるんじゃないかな・・・」

正直僕はそうは言ってみたものの
不可能に近いその状況に絶望以外見いだせないでいた

「やらないよりかはマシかもしれないな」

クランツも同じ考えのようだが
それでも僕を気遣って優しくそう言ってくれる


「まぁなんだ、折角ゲームなんだし、楽しみながら色々と試行錯誤して
 お前の事を調べていこうぜ」

親指をグッと立て
ニカッとクランツは僕に笑いかけてくる

「うん、君が居てくれて僕は嬉しいよ」

少し照れ気味に笑って
恥ずかしい台詞を言ってしまった

なんとなく気恥ずかしかった為
僕は照れ隠しをする為に話題を変える

「そうとなれば、とりあえず人の多い街に行きたいな」

「そうだなぁ、技術者を探すにしろ、人が多い所のほうが良さそうだし
 何より人ごみに紛れれば運営の目もごまかせるしな」

僕は頷く

「うん、僕達が行ける街で一番人が多い所って知ってる?」

僕の問いかけに対して
クランツはACを操作してMAPを開く

「んー、まぁ人が多い所と言ったら、古都ブルンネンシュティグか
 オアシス都市アリアンが常識かなぁ・・・あとはバトルゾーンぐらいか」

「バトルゾーンか・・・」

僕はなんとなく苦手なその言葉を小さく呟いた


ちなみに
クランツの口から出てきたバトルゾーンとは

通常フィールドとは何ら変わらないように見えるのだが
そのゾーンに入ると、対人攻撃が可能となる

簡単な話、プレイヤー間でのバトルを行う事ができるゾーンだ

ギルド戦や攻城戦など
オンラインゲームには多々の対人バトルがあるが

このバトルゾーンは決められた時間やルール等が無く
常にリアルタイムで対人バトルが可能なのが特徴だ


だがクランツが言ったバトルゾーンとは
そのバトルゾーン事体を指すのではなく
その手前にあるセーフティーエリアを指す

ここはバトルゾーンでチーム戦を行いたい時だったり
対戦相手を探したい時等に声を掛け合う事の出来る場所だ


また、バトルゾーンに侵入しようとしている人の力量を図り
同時に侵入し奇襲をかける等の駆け引きも行われる

上級者向けに思えるが、相手を倒すとステータスポイントがもらえたり
経験値がもらえたりする為、非常に人気があり人が多いというわけだ


「どうしたジグ?」

バトルゾーンという言葉になんとなく嫌悪感を抱いていると
クランツが心配そうに僕の顔を覗きこんでくる

「い、いや・・・大丈夫。行ってみよう」

僕がそう言うとクランツは
ACに目線を戻して、MAPを指差しながら言う

「じゃあ先にアリアンに行ってみるか?」

「うん、そうだね」


僕は早速出発する為に
飛ぼうと思って輝翼を発動させて翼を生やす

「あ、ちょっとまて」

クランツが少し周囲を気にしながら
僕を慌てて止めに掛かる


「ん、どうしたの?」

クランツはコソコソ話をするように
僕の耳に手をあてて話しかけてくる

「お前のその能力かなりレアみたいだから、不用意に使うな
 周りの注目を浴びちまう。それと良い方法があるから着いてきな」

そう言って歩き出したクランツ

僕はふと周囲を見渡すと
プレイヤーと思われる人達が物珍しそうに僕の翼を眺めている

僕はあわてて輝翼を解除すると
既に歩き出したクランツを追いかけた



________
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________________


《システムビル》


古都ブルンネンシュティグ

その中心部にそびえるシステムビルの一室で
十数名が1人の人間に注目している

その注目されている人が
奇麗に整列している十数名を見渡すと、口を開いた


「さて、君らに集まってもらったのは他でもない」


少し高慢さを醸し出す話し方の彼は【EMガイナス】

クランツの仲間である琉架と隼☆を捕え
さらにはジグとクランツをも捕らえようとした張本人である


そんな彼の話に耳を傾ける十数人の中には
【EM蒼炎】こと舞留沙炎もいた


「これを見てくれ」

EMガイナスは横にあるモニターを指さす

するとそこにはジグの写真が映し出されていた


ザワ・・・

ジグの写真が出るやいなや
部屋の中の人々はざわつき始める


ざわつく中で一際目立つリアクションをしたのは
他でもないEM蒼炎である

「な・・・ジグじゃないか!無事だったのか!?」

思わず叫んでしまうEM蒼炎

EMガイナスはざわつく人達とEM蒼炎を見ると
眉間に皺をよせる

「黙れ。人の話もきちんと聞けないのかお前らは」

低い声でそう言うと
ざわついていた室内は静寂を取り戻す


それを確認すると表情を元に戻したEMガイナスは
話を再開する

「いいか?知っての通りコイツの名前は【ジグ・ヴェルディ】
 我々EMの「元」仲間であり手足であった者だ」

EMガイナスの「元」を強調したその言葉に
室内は騒然となる

先程の一件がある為ざわつく事はないが
お互いに顔を合わせたりしながら驚愕している


(どういうことだ・・・?ジグは仲間だったじゃないか
 とても俺達を裏切るとは思えない・・・)

EM蒼炎は半信半疑になりながら
モニターに移されたジグの写真を見つめる


「皆も知る通り、【例の事】があってからヤツは姿を消した
 しばらく消息をつかめずにいたが、数時間前ヤツが
 このシステムビルに何食わぬ顔で進入してきた」

そう言いながらEMガイナスが手元に設置されていた
スイッチを押すと画面が切り替わる

そこには
クランツと共に【イヴィル】の主力部隊と戦闘を行う
ジグの姿が映し出されていた


「ヤツは何らかの方法を用いて、自身のステータスを書き換えた
 【CEM】から一般プレイヤーへとな。理由は不明だが」


画面の中で、自身の味方の部隊を圧倒的火力で倒していくジグを
EM蒼炎は複雑な表情で見つめる

(どうしてしまったんだジグ・・・)


そんなEM蒼炎を知る由もなく
EMガイナスは続ける

「そこでだ、貴様らは仮にもヤツと同等の力を持つEMだ
 正直俺の直属部隊の【イヴィル】では足止めがやっとだろう」

少し俯いて、あいつらを信用していないわけではないがな・・・
そう小声で言うとEMガイナスは顔を上げて続ける

「だから、お前たちにCEMジグ・ヴェルディの捕縛を頼みたい」


EMガイナスはそう言うと指をパチンと鳴らす

すると室外から女性2人が資料らしきものを手に持ち入ってくる

「それはCEMジグ・ヴェルディの詳細なデータだ
 ヤツに接触する際はそれを参考にしてほしい」


その言葉と同時に2人の女性が資料を各人に配布し始める


「芽羅さん・・・ジグはどうなるんでしょうか・・・」

EM蒼炎は資料を配る片方の女性にそう問いかける

「私にも解らないわ・・・」

それとゲーム内では私の事は【EM緑魔】(りょくま)と呼んでね
と、微笑みながら耳元で囁くが

その眼元はどことなく寂しさのようなものが感じられた


EM蒼炎はそれに反応もせず
手元の資料に目を落とす

その資料にはこう書かれていた


_____________

CEMジグ・ヴェルディ
(自立型コンピューターイベントマスター)

_____________




~6章完~






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